▼書籍のご案内-序文

中国気功学

日本語版出版によせて

 このたび東洋学術出版社より,拙著『中国気功学』が翻訳・出版され,日本の気功愛好者に紹介されるはこびとなったことに対し,中国の気功研究者として心から感謝の意を表します。
 気功は民族文化遺産の中でもとくに中国独自のものとして異彩を放っており,ことに医療気功は中国伝統医学を構成する重要な一部分であって,5000年の歴史をもっています。中国気功はその悠久の歴史の中で,豊富で多彩な内容を形成してきました。歴史の発展過程において,身心の健康に有益なありとあらゆる自己鍛練の方法および理論が絶えず吸収・融合されつづけてきており,人びとの医療保健の面に大いなる貢献をはたしてきました。
 気功とは,
 (1)姿勢調整・一定の動作--「調身」
 (2)呼吸鍛練・内気運行のコントロール--「調息」
 (3)身心のリラックス・意念の集中と運用--「調心」
の3つの要素を総合したものであり,体内の気を練ることを主眼とする自己身心鍛練法です。
 鍛練を通して元気を増強し,臓腑の機能を調整し,体質の改善をはかり,人体に潜在する能力を発揮させることによって,病気の予防・治療および益智延年の効果を得ることができます。気功学とはこの自己身心鍛練の方法,プログラムおよび理論を研究する学科であるということができます。
 気功の特徴は,意と気を結合させながら鍛練を行うという点にあり,それは病気を予防・治療する方法を,1人ひとりが身につけるという独特の医療保健措置であるということです。
 そこである程度の功法を学ぶ必要があるわけですが,功法をいっそうよく体得し,理解して,運用できるようになるためには,気功師も気功愛好家も,気功に対して全面的に理解を深めなければなりません。そうすることによってムダな労力をはぶき,能率よく修得することができるのであって,本書を執筆した目的もここにあります。
 近年来の気功師・気功愛好者による日中間の相互交流,さらには多くの人々の努力により,中国気功が急ピッチで日本に広まると同時に,日ごと市民権を得つつある状況は誠に喜ばしいかぎりです。
 本書が日中交流のひとつの賜として,広く日本の気功研究者ならびに気功愛好者の方々に奉献されることを期待しております。

馬 済 人
1987年 中国上海市気功研究所にて




 もとより上海市気功療養所は,当時全国に3つしかなかった気功の専門研究機関のひとつとして,臨床的な実践をはじめ原理の探究,功法の研究,人材の養成などの面でかなりの貢献をはたしていた。また気功関係文献の整理,教材の作成,気功知識の普及などの活動も数多く行ってきた。実際このような業績があったにもかかわらず,その後気功は厳しい弾圧を加えられ,打撃を受け,気功療養所もその活動を中断せざるをえない時期があった。
 現在,気功およびその治療方法が再評価されるようになり,慢性疾患患者,長寿法を研究する人々,気功愛好者,気功研究家といった人たちからは,気功について系統的にまとめた本を望む声が高まってきた。適当なテキストがあれば,それによって気功への理解をいちだんと深め,学習・体得・運用できるようになるであろうし,ひいては人びとの健康づくりに役立たせることができるだろう。また人びとの体質を強化し,病気を予防し,老化を防ぎ,人に潜在する有用な能力を発揮させることができるだろう。--私も上海市気功療養所の古参として,さらに中国医学科学院の特別研究員・上海市気功療養所所長・陳濤氏の助手としての立場上,やはり心中穏やかならず,絶えず思案にくれていた。
 世間の要望に答えて『中国気功学』の編纂を思いたって以来,各方面の意見を虚心に傾聴し,いく度かの修正を加えた末,やっと本書ができ上がった。
 この『中国気功学』は上海市気功療養所編の『気功療法講義』を元本としている。臨床経験を基礎とし,唯物弁証法と唯物史観の視点に立った論述を心がけており,さらに同系諸機関で発表された信頼度の高い資料を取り入れた。全10章とかなり大部の書籍になり,取り上げた問題も多岐にわたっている,まったくの気功専門書である。この本が中医学院で気功の教材として使われるばかりでなく,各種気功勉強会や,気功研究グループで読まれたり,さらに気功愛好者の参考書や,気功研究所で臨床ハンドブックとして利用されることを望みつつ執筆したのであるが,その目的にかなうものとなったかどうか。読者の鑑定に委ねることにしたい。
 気功は悠久の歴史をもっている。発展の過程で大量の文献が著わされており,古典や医籍の中にも多くの記載をみることができる。その功法と理論は,4部書『経』『史』『子』『集』や道教,仏教,儒教とも密接な関係がある。さらに気功自身が,古今たくさんの流派を生み出してきた。したがってそれらすべてを篩にかけ,本当の精華というべきものを選びとってこそ,気功およびその療法を普及させ,ひいては人びとの健康に奉仕させることができるようになると考えている。
 本書の編纂にあたって,上海中医学院院長・黄文東教授ほか,各関係の諸先生方から熱情あふれる支援と励ましをいただいた。さらに本書の完成は次の方々の応援なくしては考えられない。ここに紙面を借りて感謝の意を表したい。
        閻啓民(陜西中医学院・副院長)
        劉元亮(陜西中医学院経絡研究室:主任)
        柴宏寿(上海中医研究所・医師)
        黄健理(上海中医学院付属曙光医院・龍華医院医師)
        邵長栄(右・副主任医師)
        戚志成(医師)
        夏詩齢(医師)

1982年6月 上海にて
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