▼書籍のご案内-序文

針灸二穴の効能[増訂版]

日本語版序

 家父・呂景山は北京中医学院の第1期卒業生である。早くから北京四大名医の1人の施今墨氏について医学を学び,直接指導を受けた。また兄弟子にあたる名医・祝諶予氏の指導も受け,その理解はさらに深まった。施氏は臨床で処方をするとき,常に2つの生薬をセットで並べて書き,2薬の組み合わせとその応用を暗に示した。2薬を組み合わせることにより,互いに効果を高め合ったり,互いに副作用を抑えて有効な作用だけを残したり,相互作用により特殊な効果を現したりなど,有益な反応がみられる。このように2つの生薬を組み合わせ,何らかの効果を引き出すことを「対薬」という。呂氏は師の志を受け継ぎ,四十数年にわたる臨床経験のなかで,一意専心研究に務め,施氏の用薬の精髄を検証し,施氏の臨床用薬の組み合わせの経験を総括した。さらに,古今の文献を参照し,推敲,修正を繰り返し,『施今墨対薬』を書き上げたのである。
  「穴対」の説は,古にその理論が確立されて以来,各家の医籍では二言三言語られてきたに過ぎない。呂氏は「施氏対薬」の啓発を受けて,この理論を針灸の臨床に応用することを考えた。前人の経験を基礎に,自らの体験を重ね合わせ,本書を著述した。「穴対」は「対穴」ともいい,2つの穴位を配伍,使用する針灸学の一分野である。2穴の組み合わせには,一陰一陽・一臓一腑・一表一裏・一気一血・開闔相済・動静相随・昇降相因・正反相輔などの意味があり,治療効果を高めることを目的に応用される。用穴の基本原則は「精疎」である。つまり,証候にもとづき,精緻な選穴を行い,巧妙に配合することによって,選択的により高い効果を発揮させるのである。 ちっぽけな銀針は,四海を伝わり,国際学術交流の至宝となり,世界中の人々から歓迎されている。このほど,日本の友・東洋学術出版社社長山本勝曠氏の丁重なる要請を受け,翻訳書が貴国で出版されることとなった。本書が,日本の鍼灸師や鍼灸愛好者にとって,「良師たらざるも,益友たらん」ことを願うものである。

呂 玉 娥・呂 運 東・呂 運 権
1997年初秋


自序

 針灸学は中国医薬学の偉大なる宝庫を構成する重要な要素であり,中国人民が長期にわたり疾病と格闘した経験の総括である。祖国の医学遺産を継承・発展させ,針灸の臨床効果を高めるため,臨床常用シュ穴の配伍(組み合わせ)の経験を整理編集したものが本書『針灸対穴臨床経験集』である。
 本書には223対の対穴が収録されている。シュ穴の機能(穴性)および主治から23の大項目に分類し,それぞれの対穴については以下のような形式で説明している。
一.対穴:対穴の組み合わせ。本書で収録している対穴は,前賢がすでに使用したもの,現代において創出されたもの,筆者が臨床経験から体得したものを含む。
二.単穴作用:腧穴個々の意味,作用,主治病,主治証について(別項において説明があるものについてはこれを省略する)。
三.相互作用:中国医学の弁証理論の原則に則った,2つの腧穴を配伍することにより生じる機能,作用について。相輔相成,相反相成,開闔相済,動静相随,昇降相承,正反相輔などの作用がある。
四.主治:対穴の主治病および主治証。つまり,一組の対穴の適応範囲。
五.治療方法:腧穴の針刺方法,一部の腧穴では灸法。治療方法が明記されていないものについては,一般的な治療を行う。
六.経験:前人の経験を例示し,また筆者の経験も紹介する。
 本書は,編集過程において,山西省衛生庁長官および職員から多大なる支持と協力を得た。また,北京針灸学院設立事務所の王居易氏からは資料の提供,中国中医研究院の王雪苔副院長および中国北京国際針灸培訓センターの程農主任からは一部の原稿について教えを受け,また審査閲覧をお願いした。また,わが師である中国医学科学院北京協和医院中医科の祝諶予教授および北京中医学院の楊甲三教授に文章の斧正を請い,序文をお願いした。ここに謹んで感謝の意を表したい。

呂 景 山
1985年元旦




 針灸は中国医薬学の偉大なる宝庫を形成する重要な要素である。遠く6~7世紀,朝鮮,日本に伝わり,16世紀末には東欧にまで伝わり,現在では,ほとんど世界中に行きわたっている。中国医学には,「適用範囲が広い」「効果が速い」「使いやすい」「副作用がない」などの特徴があるため,世界各国で受け入れられたのである。今も多くの学者が,人類の健康により寄与するため,日々研究に取り組んでいる。
 中医の神髄は弁証論治にある。それは針灸も例外ではない。中医各科(内科・婦人科・小児科など)には,理・法・方・薬があり,針灸には,理・法・方・術がある。この原則から離れると,頭が痛ければ頭を治療し,脚が痛ければ脚を治療する「対症療法」に陥ってしまう。弁証論治なくして,期待できる治療効果を収め,医療の水準を絶えず高め,その治療法則を探求することは非常に困難なことである。
 呂景山氏は北京中医学院第一期卒業生である。在学中は,私の助手を務め,のちに施今墨先生について臨床にあたった。彼は勤勉な努力家で研鑽を怠ることはなかった。『施今墨対薬』の奥義に関しては特に理解が深く,施氏の学術思想の啓発のもとで,「一を聞いて十を知る」融通無碍な能力により,これを針灸臨床に応用し成果を収めた。さらに研究を重ね,針灸シュ穴配合の経験を一冊にまとめ上げたのが,まさしく本書『針灸対穴臨床経験集』なのである。
 「対穴」に関する論説は古代より散見されるものの,これまで明確に理論化されたことはなく,ただ,各家の医籍中に二言三言述べられているのみであった。呂景山同志の著作は,大胆な挑戦であり,中医界をもり立て,中国針灸医術の世界的な地位を保つための一臂の力となるであろう。本書が針灸界へ貢献することを祈って序としたい。

祝 諶 予
1985年2月1日北京




 針灸治療は一定の腧穴を通して行われる治療法である。穴を用いるのも中薬を用いるのも道理は同じである。複雑に変化する病状に合わせて,中医理論,特に経絡学説を駆使して弁証立法し,選穴処方するのである。薬物治療では単味薬から複数の薬を同時に用いるようになって方剤学という学問が生じた。もしこれを薬物治療の1つの進歩と捉えるならば,単穴治療が二穴に発展し,さらに系統的な配合原則が形成されるにいたったことも,まさしく針灸治療学の大躍進と捉えることができよう。穴位の配合を通じてこそ,多くの複雑な病証に対応でき,穴位の作用を協調,発揮させてこそ,治療効果を高められるのである。
 古人は穴位の組み合わせに関して工夫と研究を重ねてきた。厳格な規則性と柔軟性のある応用をバランスよく取り入れている。「対穴」とは,針灸臨床で習慣的に用いられてきた一種の配合形式である。『内経』にも少なからず記載がみられる。例えば,同肢本経配穴の魚際と太淵で肺心痛を治療し,同肢表裏経配穴の湧泉と崑崙で陰を治療し,腹背兪募配穴の日月と胆兪で胆虚を治療している。用穴は「精疎」が重要であるといわれる。『霊枢』の「先にその道を得,稀にしてこれを疎にし……」からきていると思われる。「対穴」の応用は,まさしく「先にその道を得」,シュ穴の主治効能に精通することが基礎になり,客観的な症状にもとづいて選穴を絞る必要がある。この方法によらなければ「稀にしてこれを疎に」した有効な治療が不可能となるのである。
 景山医師は優秀な成績で北京中医学院を卒業している。その後は臨床に携わり,研鑽に務め,現在にいたるも決して怠ることはない。臨床では主に針と薬を併用し,高い治療効果を上げている。「対穴」は岐黄(岐伯と黄帝)の時代に種が蒔かれ,現代において実を結ぶこととなった。本書の出版によりわれわれは針灸臨床配穴の専門書を手に入れた。本書は針灸処方の研究にも大いに参考価値がある。ここに謹んで衷心からの祝辞を述べたいと思う。

楊 甲 三
1985年3月16日