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中医病因病機学

序文

 宋鷺冰教授主編の『中医病因病機学』は,中医病因・病機学における学術成果を,系統的かつ余すところなく継承した著書であり,本学科における学術レベルの高さを示すものです。本書を広範な読者の皆様にご紹介できることは,本書のプロデュースに携わった者の一人として,喜びに耐えません。
 分化と統合とは,科学を発展させるために不可欠な要素であります。中医学は,『内経』および『傷寒雑病論』が登場するに及び,中国医学史上第一段階の統合を果たすとともに,天人相応論という総体論と,弁証論治とを統合することにより,科学的な医学体系を作り上げました。そして仲景以降,隋,唐に至るまで,科学・文化の発展にともない,中国医学は一貫して科学的分化を発展させてきました。その結果,『諸病源候論』のような,病因病機学の専門書を生み出し,13の臨床学科を創設しました。統合と分化は,中国医学の発展を促すとともに,これを地域的な民族医学から,東洋の医学へと押し上げました。
 ところが,唐,宋以降は,中薬学と温熱病学が発展したほかには,これ以上の細分化や高度な統合は見られなくなりました。中医学は,中国文化と共生してきたという歴史の制約を受けているために統合性は高いが,分化という面,特に理論面での分化は,立ち後れています。それが中医学の発展を遅延させる一因ともなっています。
 古代に形成された原初的理論を系統的に整理・研究し,専門書および新しい学科を創設し,中医学をさらに細分化することは,研究を促し,人材を養成して,中医学全体を発展させます。そしてこれこそが,本書を編集した目的であります。
 いかなる科学も,過去業績を継承することによってはじめて発展します。しかし,継承は目的ではなく,科学発展のための手段にすぎません。多くの専門家,老中医,青年中医が一堂に会し,テーマを選び,整理研究と討論を繰り返すことは,古代医学家と現代の専門家の経験を継承し,人材を養成するための有効な手段となります。『中医病因病機学』は,このような方法によって目的を達成しようとするものです。
 ただし,科学研究とは,とりもなおさず創造的な作業であります。中国医学を継承発展整理・向上させることは,長い年月を要する壮大な事業であり,本書だけで完成できるものではありません。したがって,本書は,千年の梅の古木に生えた若木のような,わずかな成長の兆しでしかありえません。私たちは園丁のような気持ちでその若木を守り,水を注ぎ,剪定し,科学というフィールドでたくましく育てていきたいと思います。

侯 占 元
1983年9月 蓉城にて