▼書籍のご案内-序文

中医鍼灸臨床発揮

凡例

 1.本書で用いられている補瀉法は,明代の陳会が著した『神応経』のなかにある捻転補瀉法と同じものである。捻転補瀉の時間,角度,速さは,患者の病状および感受性にもとづいて決定されている。
 一般的にいうと,瀉法の場合は施術者の判断にもとづいた深さまで刺入して,鍼感が生じた後に捻瀉を行い,5~10分に1回,30秒~3分間の捻瀉(局所取穴の場合は捻瀉時間は短くする)を行う。この捻瀉を2~3回行い,15~30分置鍼して抜鍼するものとする。局所取穴による局部療法では,瀉法と強刺激を配合する場合もある。
 補法の場合は,やはり施術者の判断にもとづいた深さまで刺入して,鍼感が生じたのちに連続的に捻補を3~5分間行い,抜鍼する。場合によっては捻補を10分間行い(重症の虚証または虚脱患者には,捻補時間を長くする)抜鍼するものとする。補法と弱刺激を配合する場合もある。
 文中の(補)と(瀉)は刺鍼による補法と瀉法を意味する。施灸による補法と瀉法の場合は,それぞれ(灸補)(灸瀉)とした。これらの( )付きの文字および(点刺出血)(透天涼)などの( )付きの文字は,その前に列記された複数の経穴名の全部にかかり,それらの経穴に対して同じ手法を施すことを示している。
 2.本書で紹介している「焼山火」「透天涼」の両手法は,明代の徐鳳が『鍼灸大全』金鍼賦で述べているような複雑なものではない。本書中の焼山火手法は,適切な深さに刺入して鍼感が生じた後,刺し手の母指と示指の2指を補の方向に向けて捻転し,その後鍼柄をしっかり捻り(局部の肌肉を緊張させることにより鍼が深く入るのを防ぐ)下に向けて適度に按圧し,次第に熱感を生じさせるというものである。
 また透天涼手法は,適切な深さに刺入して鍼感が生じた後,刺し手の母指と示指の2指を瀉の方向に向けて捻転し,その後鍼柄をしっかり捻り(局部の肌肉を緊張させることにより鍼が抜けるのを防ぐ)上に向けて適度に提鍼し,次第に涼感を生じさせるというものである。この種の操作方法は比較的簡単であり,マスターしやすい。
 3.本書の「補法を用い焼山火を配す」(補,焼山火を配す)とは,捻転補瀉法の補法を用いて捻補したのちに,さらに焼山火を施すことである。これにより温補の効果をうることができる。「瀉法を用い透天涼を配す」(瀉,透天涼を配す)とは,捻転補瀉法の瀉法を用いて捻瀉したのちに,さらに透天涼を施すことである。これにより熱邪を清散させる効果を得ることができる。
 4.本書における取穴は,患部取穴と循経近刺の場合,一側の経穴を取穴することが多い。この場合は左を取穴するか右を取穴するかを明記した。循経取穴と弁証取穴に関しては,すべて両側の経穴を取穴するものとしているので,「両側」の表記は省略することとした。
 5.施灸に関して「灸瀉」「灸補」とある。その方法は灸頭鍼あるいは直接灸を用い,一般的に施灸時間は10~30分間とし,施灸時に瀉法または補法を配すこととした。
 6.ある配穴処方が某湯液の薬効に相当,あるいは類似との表記があるが,これはその湯液全体としての薬効を指したものである。
 7.ほとんどの医案に対して考察を加えたが,考察の中では選穴理由,用途,処方中における各治療穴の作用,配穴と湯液の効能との関係といった説明は,できるだけ簡略化した。あるいはこういった説明を加えていない医案もある。それは『臨床経穴学』に詳細に論述されているからである。
 8.使用している鍼具は,1948年までは自家製の25号,24号の毫鍼を用いていたが,1949年以降は一般に市販されている26号の毫鍼を用いている。肩・膝・股関節部や肌肉が豊満な部位に灸頭鍼を施す場合は,24号の毫鍼を用いることが多い。
 9.鍼治療は多くの場合が2~3日に1回としている。