▼書籍のご案内-序文

針灸経穴辞典

訳者まえがき

 本書は,山西医学院の李丁著『十四経穴図解』と天津中医学院編『ユ穴学』を訳出し,編纂したものである。
 本書では経穴361穴,経外奇穴61穴,計422穴にすべて,〔穴名の由来〕〔出典〕〔別名〕〔位置〕〔解剖〕〔作用〕〔主治〕〔操作〕〔針感〕〔配穴〕〔備考〕の項目を設けて,ツボに関する必要な知識をほぼ完全に網羅し,なぜその名称がつけられたのかから,針を刺した時の感覚まで,読者諸氏のツボに対する全面的理解に役立つようにした。
 現在,中国では中医学院にこれまで包括されていた針灸科が針灸学部として独立し,近い将来には,針灸大学へと発展する趨勢にあり,高次の教学を保証しうる体系的針灸理論の必要性が叫ばれている。そうした中で国家的事業として,過去の針灸文献の整理と,これまでの実験研究・臨床実践の全面的総括が行なわれ,全国統一教材を作る基礎作業が各地の中医学院で進められている。本書に用いられた天津中医学院編『ユ穴学』はそうした統一教材を目指した同学院の『経絡学』『ユ穴学』『針法灸法学』『針灸治療学』『実験針灸学』の5試用教材の1冊であり,とくに同書の各穴につけた「作用」は天津中医学院が自らの長年の臨床経験と中国各地の研究文献・資料および過去の資料をふまえてまとめあげたツボの性質・効能である。全経穴に「作用」がつけられたことによって,針灸ははじめて「理法方穴」という句で言いあらわせる,理論から実際の治療まで一貫した体系をもったことにより,「針灸学」と呼ぶにふさわしい内容にまで高められたのである。すなわち「作用」は針灸理論にもとづいて証を決定し,治則をたて,治則にみあった処方を導き出し,ツボを選択するうえで不可欠なものであり,今後の中国針灸の弁証施治で処方選穴における中心的役割をはたすものである。
 したがって,本書は今後,日本に登場してくるであろう中国の針灸学体系(経絡学,針灸治療学,実験針灸学,針灸医学史等)の一構成部分であり,中国針灸を全面的に理解する端緒となるものである。
 今日,数多くの経穴辞典の類が日本で出版されているが,中国針灸の真髄ともいうべき臓腑経絡の弁証施治に立脚して書かれた経穴学書は皆無であり,針灸治療家が中国針灸を試みる上で,本書は必ず座右におくべき書となりうるものである。
 本書の前半部分(第1章~第2章第7節)を浅川要と生田智恵子が担当し,後半部分(第2章第8節~第3章第5節)を木田洋と横山瑞生が担当したが,全篇にわたり4人が共同でその責を負う。また附1の「穴位作用の分類表」と附2の「配穴分類表」は兵頭明(東京衛生学園)が訳出作成したものである。
 本書を手にした読者諸氏の御批判,御指教を仰ぐとともに,日本の針灸治療の今後の発展にいささかでも寄与できれば幸いである。
 最後に本書の刊行に際し,日本での翻訳出版を快諾下さいました李丁先生はじめ,中国側の御好意にお礼申しあげます。また出版に御尽力下さいました東洋学術出版社の山本勝曠氏及び編集の青木久二男氏に深く感謝いたします。

訳 者
1986年3月