▼書籍のご案内-後書き

医古文の基礎

編訳者あとがき

 平成11年8月の日本内経医学会の夏期合宿において、『医古文基礎』の訳出が会の事業として決められ、そして一両年を目標に訳出するように協力者に依頼した。同年11月、当時会長であった島田隆司先生が病に倒れたので、協力者にピッチをあげるようにお願いした。その結果、翌春には訳稿が揃い、荒川が文章を調整して、6月中旬には初稿が完成した。これを島田先生に報告すると、大いに喜ばれ、「東洋学術出版社に話は通しておいたので、山本社長に相談しなさい」と指示された。その2カ月後に先生は他界されたが、初稿だけでも見ていただけたことは本当によかったと思う。その後、荒川と宮川とで原稿を何度も直し、最終稿ができたのは平成13年8月である。その間に往復したA4の用紙は積み上げると50㎝(約5,000枚)にもなった。これだけ大変な事業だとは思いもよらなかった。

 本書の訳出の担当分野は次の通りである。


 第1章  第2章  第3章 工具書 句読 語法 宮川浩也(日本内経医学会) 左合昌美(日本内経医学会) 左合昌美(日本内経医学会)
 中編の「語法」に下編の「常見虚詞選釈」を組みいれたために、本書の「語法」は全体の4割超の分量となった。「句読」と併せるならば、本書の約半量を左合氏が訳出したことになる。
 第4章 訓詁 さきたま伝統鍼灸研究会
 さきたま伝統鍼灸研究会(石田真一代表)が、平成11年度の取り組みとして本章の翻訳を試みたものである。まったくの初心者が、新たに中日辞典を買って、一字一字調べ、悩み苦しみながら生みだしたものである。最終的には宮川が文章を整理したが、現代中国語が読めなくても、根気強く学習すれば、ある程度は形になるという格好の例になった。飯島洋子・石田光江・金子元則・田中教之・田中芳二・中倉健・原口裕樹・原口裕児の諸氏である。ここに名をあげ、賛美の辞にかえる。
 第5章  第6章 音韻 目録 山本朝子(日本内経医学会)  田中芳二(さきたま伝統鍼灸研究会)
 さきたま伝統鍼灸研究会の田中氏が、「訓詁」翻訳の余勢をかって「訳してみたい」と積極的に挑戦したものである。氏は現代中国語にある程度馴れていたが、目録学の(たとえば書名や人名の)知識は皆無に等しかったので、翻訳するのは相当大変であったと思う。それでも、最後まで果敢に挑戦してくれたのには敬服に値する。
 第7章  付 章 版本と校勘 漢字 小林健二(日本内経医学会)  荒川緑(日本内経医学会)
 本書を読者に近づけるため、奈良の寺岡佐代子さんに目を通していただき、一般的な読者からの視点をご教示頂いた。さらに、神奈川県視覚障害援助赤十字奉仕団の大八木麗子さんには、朗読ボランティアの立場から細やかなご指摘を賜った。  本書は、井上先生の講義に萌芽し、島田先生によって出版化へと動きだし、そして多くの協力者の手によって完成した。故島田先生には本書を捧げ御冥福を祈る次第であります。本書が多くの方々の目に触れる機会を得ることになったのは、何より、東洋学術出版社の山本社長のご高配、ご支援によるものであります。感謝申し上げます。

宮 川 浩 也
2001年8月10日 島田隆司先生の命日に